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東京高等裁判所 昭和54年(く)51号 決定 1979年2月19日

申立人

猪原成雄こと 金漢琪

右の者に対する刑の執行猶予言渡取消請求事件について、昭和五四年二月一五日浦和地方裁判所がした決定に対し、申立人から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、申立人提出の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

抗告理由一について。

所論にかんがみ記録を調査すると、本人は、昭和五一年二月一三日東京地方裁判所において、覚せい剤取締法違反罪により懲役一〇月に処せられ、三年間右刑の執行を猶予され(同月二八日判決確定)たものであるが、右猶予の期間内に犯した覚せい剤取締法違反罪により、同五三年九月一二日東京高等裁判所において、原判決破棄、懲役一〇月、原審未決三〇日算入の判決を受け、右判決は同五四年二月六日確定したこと、なお、上訴申立以後の未決勾留日数二七二日が刑訴法第四九五条第二項により本刑に算入される関係にあることが明らかである。

ところで、刑法第二六条第一号にいう「禁錮以上ノ刑ニ処セラレ其刑ニ付キ執行猶予ノ言渡ナキトキ」とは、執行猶予の期間内に犯した罪につき禁錮以上の刑を言渡した判決が確定したことをいい、かつ、右をもつて足りるのであるから、その刑が未決勾留日数の通算によりすでに執行されたものとみなされているとか、すでに刑の執行を終了しているとかの事情があることは、右条項の適用を排除すべき理由とはならない。

したがつて、右条項により前記執行猶予の言渡を取消した原決定には所論の誤りはなく、論旨は理由がない。

抗告理由二について。

所論にかんがみ記録を調査すると、原裁判所は本件執行猶予取消請求について申立人本人の意見を徴し、本人から昭和五四年二月一五日付意見書も提出されているのであるから、刑訴法第三四九条の二第一項所定の手続を経たものであることが明らかである。本人は、右意見書において口頭弁論を請求しているが、口頭弁論を経るかどうかは本件の場合においては原審の裁量によるのである、したがつて、原審が口頭弁論を経ない以上、弁護人選任権を告知しなかつたからといつて、右法条に違反するものではない。論旨は理由がない。

そこで、本件抗告は理由がないので、刑訴法第四二六条第一項後段により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

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